風のように自然と暮らす――勇敢なビルダーたち 四方谷毅・礼子
見るものがワクワクする気持ちを持たずにはいられない夢のような空間をつくりだす人がいる。四方谷毅、礼子(よもや つよし、れいこ)よも夫婦だ。
作庭家でツリーハウスビルダーの四方谷毅さんと鍛造作家の四方谷礼子さんは、ご夫婦で様々な制作活動を行っている。EXILEのUSAさんの移動式DJブースツリーハウス【ヤシ子】の制作、廃墟だった鉄工所をリノベーションしたCafe Soul Tree、世界各地にある会員制レストランBohemianのNY店では作庭など、国内外でジャンルを問わず幅広く制作活動している。
現在は千葉にあるBrownsFieldで築200年の古民家の改修作業に参加しているお二人。お話を聞きにうかがった時はちょうど内風呂改修に加え新たに外風呂をつくる作業を行っているときだった。
四方谷礼子(以下礼子):「この古民家のお風呂はシネマちゃんが赤ちゃんを産んで、デコさんがとりあげた親子の記憶が残る場所。だから、体から外に出すイメージで、新たに外にもお風呂をつくることにしたん」
“人(相手)や場所”の力を取り込みイメージしてカタチをつくると話してくれたのは鍛造作家の四方谷礼子さん。古民家の外風呂として、酒造メーカーで実際に使われていた酒樽に新たな息を吹き込んだ。
四方谷毅(以下よも):「底がくぼんだホーロー性の酒樽は熱効率もよくて沸かしやすいんや。井戸から汲み上げてお風呂に使われた水は、下についてる蛇口ですぐ横の畑に散水できるし、いつかこの五右衛門風呂から見える畑や、その先にあるスダジーの木も農Gardenとしてランドスケープして行けたらええよなぁーって思っとる」
よもさんは大学時代から作庭家として庭づくりをしていた。大学卒業後いせしま森林組合に就職するも、より“ワクワクすること”を求めて29歳のときにツリーハウスをつくる。その才能が認められツリーハウスビルターとしての活動が始まる。その頃二人は結婚。人生の転機となった。
礼子:「金属作業する時に出る火花や、匂い、溶けて違う形になる様を見ているのが好きで、ドキドキする。金属が変化する瞬間、わたしのイメージを入れ込む事で手から新たなカタチが産まれる。それが楽しくて仕方ない。」
21歳で彫金を始めて、24歳から鍛造作家として活動をしていた礼子さん。今は素材にこだわらず、よもさんと一緒に各地で創作活動を行っている。
礼子:「うまく言えないけど、その人が生きていくなかで、そのときどういう時間を過ごしたら“次の自分につながる”ことができるか?人の生をいつも意識しながらやってる」
二人の作業には自然な役割分担がある。“ワクワク”を担当するよもさん。相手の内面に触れて“意味合い”を深めながら空間を色付けしていく礼子さん。
よも:「その人の為にあって、ワクワクしたり、安らぎにもなって、時には形が変化したり、動くモノ。意味があるものづくり!そんなのが楽しい。」
よも夫妻の生活の基盤は三重県にある。二人が産まれた三重には伊勢神宮もあり、海と山に囲まれ、田畑や緑が美しい風光明媚な土地だ。
よも:「うちの田んぼは未だに山水を使っているような、耕地整理されていない田んぼ。去年までは、何処に遠征していても両親と田植えや稲刈りをするために地元に戻っていた。でも去年両親から話があり、家族で休耕田にする決心をしたんや。“先祖代々大切にしてきた田んぼを引き継ぐ責任”を手放した。」
これまでは遠征作業の合間に三重に帰ると、田植えや筍掘り、お茶摘みや梅の収穫、稲刈り、みかんの収穫など、ご両親がやっている農業を二人も手伝っていた。
“自給自足の生活と移動しながらの生活”
二人にとってどちらも大切な暮らしかただけど、両立はできない。昨年末に「創作活動を生きるメインにする」ことを選択した。それは二人にとって、大きな決断だった。
礼子:「いつでも好きな時に帰れる場所があるから、違う場所に行って制作ができてる。でも必要最低限の荷物で遠征暮らしをする度、もっともっと持ち物を手放していこう!っていう気持ちに凄くなってきた。しっかり選択して、もっとわたし達だからできるコト!をして生きたい。」
よも:「遠征暮らしでいろんなところに仲間ができる。つい最近も北海道の仲間か自ら解体したエゾジカを現場に送ってくれてみんなで食べたんやけど、めっちゃ旨かった!その土地ならではの食にも出逢えるし、この暮らしは色んな土地を味わえるのも楽しい。」
人の生活を支えるベースとなる「空間づくり」。そんな空間づくりをあちこちで提供しているお二人のこれからの暮らしについてお話を聞いた。
礼子:「自分が生きてるっていうのをより感じられる命溢れる環境に身を置きながら、都会に来て仕事をするという、どちらもイケるギャップを楽しんで行きたい。それでもいろんなものが削ぎ落とされて、自分に本当に必要なイメージができるのは、三重で暮らした時間があるから。定住してなくてもやっぱり産まれ育った場所で過ごした経験は大きい!」
場所や概念に縛られずに、自由な発想力で土地や空間に新しい命を吹き込んでいくよも夫婦。日本のあちこち、世界のあちこちに新たに息を吹き込んでいく。二人から産みだされた空間は関わる人・訪れるひとたちに新しい風を吹かせ、その土地で新たに生活の種を育んでいく。
礼子:「昔のひとたちがそうしてたように、自分の感覚を研ぎ澄ませて深めていきたい。私たちはどの場所に住んでるとかじゃなくて、ここ(自分の胸にふれて)に住んでるから、どこに居ても大丈夫なん。」
二人のこれからはどうなっていくんだろうか。次のプロジェクトについても語ってくれた。
よも&礼子:「来年もスゴイことやるよー!」
大人も子供もワクワク、ドキドキさせる二人のイマジネーションは止まることを知らない。よも夫婦の多彩な空間づくりからこれからも目が離せない。