「時代を切り開いていく」クリエイター・小橋賢児ロングインタビュー 勇敢な男の持つこれからのヴィジョンとは――

2019年4月9日

勇敢に「時代を切り開く」――。今は芸能界からではなく、クリエイターとして日本に新しい風を吹かせる男・小橋賢児。彼の発信するプロジェクトはいつもセンセーショナルだ。「新しい」ことを臆することなくリリースし、そのムーブメントを根付かせ、決して熱を冷めさせない――。

実力派俳優として活動し、現在は「ULTRA JAPAN」や「Diner en Blanc Tokyo」、先日お台場で開催されて話題となった未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」などのプロデュースや、映画監督、イベントのオーガナイズなど、幅広くクリエイティブな活動をしているクリエイター・小橋賢児。人生観を変えたインド滞在や心のあり方について、将来のことなど、お話を聞かせてもらった。

――時代や社会にとらわれずに果敢に「新しいこと」を始めていく小橋賢児さん。小橋さんから見た現在の社会はどんなものですか?

「時代的にもそうだと思うんですよね。“世代”じゃなくて“時代”だなって。20世紀って「物質文明」だって言われているくらい、人々はモノを消費したり、所有したりすることに価値を見出してきた。けど、常にカウンターカルチャーがあるように、「消費や所有すること」の逆の側面も見直されてきていた。

悪いことが起こったとき、それが起こったことでみんなが物事を見直すきっかけになったりして。政治や戦争、テロなどもそうだけど、その出来事だけをフォーカスすると「今って辛い時代だよね」ってなるけど、一歩引いて見てみると、その出来事をきっかけに人々の気持ちがチェンジしたりできる。それまではもしかしたら、自分の人生をないがしろに生きてた人もいたかもしれないけども、その出来事で変わったかもしれない。

ネガティブになってしまうようなことが起きた時って、結果的に何かを改善してくれる「点」である可能性もある。そういう意味でいうと21世紀ってより一層“心の時代”の方に向いていくんじゃないかなと僕は思う。もちろんいっぺんに物事って変わらないので、今はひとつひとつの通過点で。これからが本当の意味で21世紀っていうか。

世紀の始まりって10年後からって言われてるくらいなんです。やっと2010年以降、21世紀が始まり始めたっていうか。だからいきなり“ボーン”とは変わらないですよね。多分21世紀ってこんな時代だったよねって言われるのは2050年以降、もしかしたら2100年とかに近いのかも。だからまだまだ僕らが思ってるような「21世紀になったけどあんまり変わらないよね」とか「21世紀って最悪だよね」とか、そういうところにフォーカスしちゃうといくらでもネガティブになっちゃうんだけど、多分自分の思考次第で“ある場所にはいける”っていう風には常に思ってる」

――心の変化。物事を相対する2つの方面から見つめる

「僕が好きな言葉に仏教の「中道」っていうのがあって。その言葉に「両極を知ることこそ真ん中の道を知ること」っていう意味があって。物事って、片側だけのコミュニティにいると、相手側がよく見えたり悪く見えたり、どちらか一方から見ることによって、ものの見方って変わっちゃうんですよね。例えばテロリストからしてみたら、空爆をする国やサポートする国が敵国になって、向こうからしたら空爆をする方が“テロリスト”になるじゃないですか。宗教戦争の始まりや政治にしても同じことだけど、「あいつが悪い、こいつが悪い、自分が正しい」ということに盲目的になってしまうと、その結果相手の心を聞いていないし、意見も聞いてない。それって結局今まで何度も繰り返されてきた宗教戦争と同じ話だったりする。

だから僕はいくら自分が正しいと思っても、全然違う方面から一回物事を考えてみる。僕が今やってるイベントの運営にしてもそうで、「作り手」の立場からの考えだけじゃなく、お客さんの立場からだったらどう考えるか。元々僕は俳優をやっていたけども、「演じる側」から「撮る側」にまわって「作るってどういうことなんだろう」「作る人・制作サイドの気持ち」を考え始めたり。

そうしているうちに、ある意味での「物事の本質」みたいなものが見えてくるし、「自分なりの答え」が持てるようになってくる。幅が広ければ広いほど、両極を知れば知るほど、本当に物事がシンプルに、「真ん中の道」が見えてくる」

――「中道」から見えてきた物事の本質、自分なりの答え。小橋さんの現在の考え方に至るきっかけとは

「元々俳優をしてた中で、自分で自分に制限をかけてたところがあって。「俳優だからああしてはいけない」「俳優だから時間がないからできない」とか、何かできない理由を探してた時があって。それで俳優を休業して、自分の道を歩もうと。映画を作ったり、フェスのディレクターとか、イベントのプロデュースとかやるようになって。自分の会社なんで、ある意味で自分の自由にできる部分は生まれてきたけど、そんな時にまた「過去のパターン」じゃないけど、なんとなく前と同じように、自分の立場を守ろうとし始めたり。人間って繰り返すから、「ああまた同じ感じに戻ってしまうんじゃないか」っていう感覚を、「いい時ほど」持っていたいというか。

SNSとかのコミュニティの中で、「気を使う」が「気にする」になっていたり、自分の心の声を聞かずに「周りがいいって言ったから」タイムライン上の価値観に知らぬ間に流されていたり。『自分のいるコミュニティの中の価値観の共有』で、ある物事が「いい」って言っていたとして、全く違うコミュニティに行ったら全く逆のことを言ってるんじゃないかな?って。SNS上でみんな自分のチャンネルを持ってるわけだから、政治にしてもライフスタイルにしても、発言力や発信力がある人たちの発言で影響を受けやすかったりする。だけど、本当にそれが、自分の本心から「YES」と言ってることなのかを一回ひいてみることはすごく大事だと思う」

――どちらかが間違ってるわけじゃないんだけど、片方に気を使って疲弊していたり、誰かの影響を受けて自分の本心を見失ってしまっていたり…。小橋さんはそんな時、どんな風に切り替えますか?

「一回切り替えたい、物事をひいてみたいときに僕は自然の中に行く。サーフィンとか、山登りしたり。僕はあんまり生き方的に「現代から離れて自然の中だけで過ごす」ってことはしたくなくて。両方知っていたいというか。多分、よくいう引き寄せとか、奇跡が起きるようなことって「自然の流れ」に入れば、自然と調和すればするほど当たり前のように起きていくと思ってて。。でもそれだけを追っていったら、「今」っていう時代からは外れていっちゃう気がして。だから僕はテクノロジーも含め、この時代に起きていることを大切にしながら、自然の中とか、自分の今までの常識が通用しない場所、全然自分の価値観と違う場所に飛び込んでみることによって、自分のバランスをとりたいというか。

普段はもうデジタルオタクなんじゃないかっていうくらいiPhoneやPCを離せない僕が、ブッダが悟りを開いた瞑想法と言われるヴィパッサナーの瞑想センターに行って1日15時間くらい「自分」と向き合ったり、電波も全く届かないパプアニューギニアにサーフィンしに行ったりして。インドっていうのは、全く想像がつかない場所で。なんで先人はインドに行くのか?がわかった気にはなってたけど、旅行に行っただけじゃわからなかった。だから僕は本当の意味でのインドを知りたい!と思ってインドに行ってみようと。

(海外滞在時などに持参するという愛用品を見せてくれた 左はスピーカー、右はKindle。)

――話題になった小橋さんのインド滞在。インドで触れた奇跡と『人生観』

「実際行ったら本当に、普通に生きてたら「年に数回あるかないか」のイライラ具合のハプニングが1日に何回も起きるんで、(笑)そういうことが日々何度も起きてくると、結果それを「どういう風に自分が捉えるか」だけの話なんだと、すごいシンプルになってくる。物事ってすべて中立で、それに意味付けしてるのは自分であって。自分が「最悪」って思うことに意識を引っぱられちゃうのか、それを受け入れて楽しめるようになるか、それによってインドは全然違うところになる。

インド人みんな嘘つくし、道聞いて知らなくても知ったかぶって間違った道を教えてくるし、交通ルールもめちゃくちゃだし、電車だって12時間くらい平気で遅れるし(笑)「どうにかしてくれ!」って思ってたけど、途中から切り替えて「そういうハプニングを全部楽しもう」って。そしたら奇跡のような出会いが起こったりとか、どんどんいい方に物事が進んでいって「こういうことか、人生は」って気付いたり。

滞在中に一番思ったのが「人や人生は一瞬では変わらない」っていうこと。反復練習みたいに繰り返していくことで、気付いたら徐々に徐々に意識がアップデートされて変わっていく、というか。習慣にして、変化させることに慣れていこうと。僕はブッダのように悟りを開いたわけでもないし、「だって人間だもの」とか言っちゃうくらい飲みすぎて二日酔いでどうしようもない時もあるし。生きてる上で思い通りにならないことってたくさんあって。「今日ほんとに辛い」って時や、相手に嫌な思いをさせたり、させられたり。そういう時に自分の動いた感情からふっと一回ひいて、切り替えていくようにした。そしたら最初はすごい長かったイライラや落ち込む時間が、少しづつ切り替えやすくなってくる」

――習慣を『意識して』切り替える。心のトレーニング

「以前は自分の意識に引っぱられやすくて、心が深い闇に入っちゃったりとか、「なんであいつはこういう風に言うんだろう」とか「なんで?」「WHY?」ばっかりだった時もあった。

けど、習慣を『意識して』切り替えることをしていると感じ方が変わってきて。全ての性質は同じで、目の前に移りゆくことをただ観察して受け流すっていう。どんな感情も、生まれては消えていくっていう自然の摂理の一部であって。人は「嫌なものには反発して心地よいものには執着する」癖がある。けど、「嫌なものも心地よいものも、決めてるのは自分」。だから、どんな感情がきても執着したり反発したりせずに、ただ起きたことを観察して受け流すっていう。そうするとやがて汚れが取れていく、っていう教えを日々実践してる。

すべて一歩一歩の実践しかない。山登りと同じで、真理探求への道にも、一歩一歩歩み出してる。時にある失敗も、はみ出してしまうことがあっても、自分で経験するから意味がある。溢れる情報の中で「こっちが正しい、あっちが悪い」に流されていくと、結果いつも安全な道ばかり通ってしまって実際は自分で全然試してないっていうか。「この道が正しい」って教えられると盲目的になりやすい。

今自分が見てる世界でも、これからもっと経験をしていけば真ん中っていうのも常に変わっていく。そのためにいろんな経験とか、感覚を磨いていったりしていきたい。仕事がうまくいったり環境がよくなったりしていくとどうしてもそこだけに(意識が)入っていきやすくなるから、そしたらもう一度全然違うところに行って、その時の真ん中の道を探るってことをしていきたいなって」

――現在、人生の最終的なゴールとすることや、将来的に「こうありたい」ことは?

「実はあんまりなくて。2015年に堀江貴文さんが書いた本「逆転の仕事論」に僕も出ていたんだけど、“8人のイノベイターの仕事論”で取り上げられた人みんなに共通してたのが『現状に満足せず、大きな夢を見るよりも今あることをただがむしゃらにやっていったら気付いたら未来が勝手にやってきてた』みたいなことで。僕が山登りする時に何となくの感覚で「あああの山の頂上に登るんだな」って、頂上を見ながら登ると疲れちゃって登れなくなっちゃう。「まだあるのか、まだあるのか」って。何となくの道を見たあと、それがどういう道かなんてわからないわけで、とにかくひたすら一歩一歩を足元を見ながら進むしかない。そうするとふとある時にゾーンに入って、フロウ状態っていうか、クライマーズハイじゃないけど。そういう状態から、自分では信じられなかった能力が出ていたりして。ぱっと気付いたら、自分が想像し得なかった山の頂上に登っちゃってた、みたいな。

僕も5年前に映画の監督になるなんて思ってなかったし、フェスのディレクターになるなんて想像もしてなかった。アナログの時代の美学では「夢を持ちなさい」「明確なヴィジョンを持ちなさい」とか言われてたけど、今の時代では「未来」っていうのが予測不可能なくらい、網の目のようにどんどんチェンジしていってる。もちろんある程度の感覚的なヴィジョンはあっていいと思うんだけど、それよりも「今この瞬間に」起きていることをより「明確に生きていく」方が、僕は“見たことがないような未来”に到達するんじゃないかなと思っていて。一番大切なのは、遠くを見すぎて足元を見ないよりも、今この瞬間にある環境や、仲間だったり、仕事だったりを明確に、どう次の一歩を踏み出すか考えていった方が繋がっていく。自然界にあることと同じで、一歩一歩山に登っていくと自分でも想像以上の美しい景色を見させてもらったりとか。

俳優をやめて、海外を旅して戻ってきて、いろいろ新しいチャレンジをしたけどうまくいかず、お金もなくなり当時の恋人からも逃げられ、先輩からも騙されみたいな。その後肝臓の病気になって3ヶ月くらい死の淵をさまよって。本当に真っ暗闇の奥の奥まで行ったっていうか、心の旅を、探求をしたんですよね。その時に初めて自分の心の奥の奥を見ることができた。そのことがきっかけで、ある意味感情をコントロールできるようになってきたっていうか、客観的に見ることができるようになってきたっていうか。そういう第一歩だったっていう気がしてます」

――これから父になる小橋さん。(※現在は一児の父)子供を持つ親になって、したいことはありますか?

「子供と一緒に「もう一回」学んでいきたいことがいっぱいあるなあって。自分一人の人生でいる時って、何かどこかでわからないことがあっても学ぶことをごまかしてきちゃったり、やれなかったことってどうしてもあったけど、“子供と一緒にもう一回新しい人生”を歩み始めて、自分が知らなかったことを一緒に学んだり、教える過程の中で自分も学んでいったりできるってすごい素敵だなって。いろんなクリエイティブがあるけど、子供っていうこの宇宙で一番素晴らしいクリエイティブ(創造)がこれから自分に起こるので。未知の世界ですけど、今までしてきたどんな仕事も「子供が生まれる」っていうクリエイティブにはかなわないなって。教えるより僕は一緒に学びたい。子供から学ぶことって多いんじゃないかな」

――以前小橋さんのTwitterで見かけた、目をキラキラ輝かせたパプアニューギニアの少年たちの写真。この日のインタビューでは小橋さんの目に同じ輝きを見たように感じました

「パプアニューギニアの子供達はテレビとかもないしインターネットもないから外の情報を知らない。でもものすごい幸せそうに生きてて。全然「貧しさ」を感じさせない。今はインターネットの普及から、多様性の時代になってる。みんな自分のチャンネルを持っていて、ある意味では本当に自分の好きに生きていい時代というか。自分を信じて生きていい時代になってきてると思う。その多様性の中で、「コミュニティの中の自分」じゃなく、「本来の自分」の生き方をどう見出せるか、っていうのが、これから大切になってくるのかなって思ってます」

キラキラした光を目の奥に輝かせながら、彼は脇目も振らず「真ん中」の道をただまっすぐにひた走る。勇敢に新時代を切り開いていく小橋賢児が放つ刺激的なクリエイティブは、私たちの心を魅了してやまない。


Text / 伏見優美プロフ

Webサイトやコンテンツ制作を行いながら、日々の生活のなかでヨガの学びを深める。
米国ヨガアライアンス認定RYT200修了