種を蒔き育てるひと。本当の「自分」で人生を生きる――Keiko Forest , Sara Kobayashi
鬱蒼とした高く覆い茂るマンゴーの古木から、カーテンのように垂れ下がるポトス。どこからか聞こえる鳥の声、流れる風で木の葉の擦れる音。ここで聴こえてくるのは「自然の音」だけ――
手付かずの自然が多く残り、“世界で一番空気がきれいだとされる場所”であり、“精霊が住んでいる”と言われるハワイのプナ地区。ここはハワイの「ジャングル」。ここプナ地区のエコビレッジにKeiko Forestさんは暮らしている。
ここでは電気も水道も通っていないオフグリッドと呼ばれる生活。ソーラーパネルで貯めた電力を使い、雨水をろ過した水を使う。自然と共存した暮らし――。Keikoさんは陽が昇る頃に目覚め、朝は育てている果物の木の世話をする。
そして現在エコビレッジに「学校」を作っている。学校の名前は“ネスト”。大きな倉庫を改造してヨガができるようにした。
心をありのままに解放し、自分の進むべき道を創り出していくkeikoさん。ご自身のこと、「これまでのこと、これからのこと」についてお話を聞かせてもらった。
◆ネイティブアメリカンの通過儀礼「Vision Quest」
Vision Questとはネイティヴアメリカンが成人する時に行う儀式で、「自分の人生の目的」を明確にしたり、直面した問題と向き合う時などに行う通過儀礼だ。Keikoさんは過去にVision Questを受けている。
Keiko:「私は27歳の時『普通に成人して大人になっちゃったけど、自分の生まれてきた意味、私の人生のVisionってなんだろう?』と思ってVision Questをしたの」
当時Keikoさんは会社員だった。自分の在り方についてを考えていたとき、たまたま書店で手に取った雑誌に「Vision Questについて」が書かれていた。
Keiko:「自分が何のために生まれてきたか、自分の本質とか。そういうVision(行く先、生き方)をQuest(探求)するのが「Vision Quest」。どんな方法でもいいから“自分がなんのために生まれてきたか”っていうヴィジョンを探す手段なの。日本にいてVisionを持ちたかったら、例えば海外に行くとか。自分で自分を大切にするっていう行為で、お給料をもらったら、何かすごく自分にとって価値があるものを自分に買うとか。一生使えるような、シンボリックなものをね。そういう行為が自分の人生のVisionに繋がってくる」
一生大切にできるもの。自分のお守りになるようなシンボリックなもの。「大切なものを自分に贈る」。そういった行為でもVisionを持てるきっかけになる、とKeikoさんは語ってくれた。
Keiko:「ハワイアンでも成人の時にこういった儀式をするのよ。日本でも本来はこういう通過儀礼があったはずなの。二十歳だから着物を着よう、とかじゃなくてね」
◆自由な発想力を持った生き方――固定概念を変える
Keikoさんはいわゆる“一般的な常識・価値観”に縛られずに日々の生活を送っている。
Keiko:「例えばアメリカ人が日本に留学してきたら、公共の乗り物とかでみんなが静かにしてるのを「何を考えてるかわからなくて気持ちが悪い」って思ってしまうことがあるかもしれない。でも逆に日本の人がアメリカに留学したら、公共の乗り物でぺちゃくちゃ隣に座った人とかと喋ってるのを見かけたりする。ななめ前に座った人とかも「今の話さあー」とか会話に入ってきちゃって。みんなうるさいの、プライバシーとかもあんまりなかったりして」
Keiko:「それで日本での留学生活を終えてアメリカに帰ったら、いつものバスに乗った時「うるさい」って思っちゃう。今までの日常生活で当たり前で気付いてなかったことが、逆だった場所での経験を経て、初めて“当たり前じゃなかった”ってことに気付くの。そんな経験を繰り返していくと、今まで当たり前だったことに対しての疑問を持てるようになる。当たり前だと思っていることは『社会生活を送っている上で自分と社会が作った固定概念』だって」
Keiko:「そういう固定概念に疑問を持てるようになって初めて、『自分は人間であって、“何人”でもなく、何者でもない。』自分の価値観でものを見始めることができるようになると私は考えているの」
◆世間のものさしと自分のものさし。考え方の共生
Keikoさんが向き合った「固定概念」。現在の考え方に至るまでのきっかけはあっただろうか。
Keiko:「小さい頃、みんなが普通に話してて笑ってることの意味がわからないことがよくあって。「なんでみんな笑ってるの?」って聞いたけど、私にはその話の意味が理解できなかった。そうしたらある友人が「世間のものさし」をKeikoは持ってない。あなたは「自分のものさし」で見てるから理解ができないんだよ、って教えてくれた」
自分の感じ方が周りと違うのかなという気持ちになった時、自分が「周囲と近い価値観」を持たないことに不安やさみしさを感じたりしなかっただろうか。
Keiko:「さみしい思いはした。でも私を理解してくれる周りの友人に助けられて、少しずつ人間修行をしたの。(笑)社会の中でも、自分が理解できないことも理解しようと努力はしたの。社会生活を送りやすくなるように『社会生活を送りやすい固定観念』もつけようとしたのよ」
そして会社勤めの生活からはかけ離れたVision Questの後、アメリカを10ヶ月かけて歩いて横断し、ジャングルでの出産…など、驚くほど様々な「体験」を経て、現在はハワイの大自然の中、プナ地区での生活に至っている。彼女はなぜプナ地区での生活を選択したのだろう。
Keiko:「アメリカのジャングルに暮らしてた時に残しておく種用の畑も作ってて、食べる分の野菜やフルーツも育ててたから広い土地が必要になって。それでハワイのジャングルに移住したの」
(KeikoさんとSaraが取り上げられた雑誌「TRANSIT」と著書「ヤナの森の生活」)
Keikoさんが生活しているのは「ハワイのジャングル」。大自然の中の暮らしはどんなものだろうか。
Keiko:「良いことばかりじゃない。厳しかったり、怖かったり。嵐がきて生活が止まってしまう恐れもある。自然の中での暮らしは、美しいことや豊かさも与えてくれるけど、私たちがはかりしれないことで、コントロールはできない力を持ってる。だからまず自分を律して、体も心も整えて生活しようと心がけてる。じゃないとペレ(火を司る精霊)を怒らせちゃう、って現地の人はみんな言うんだけどね。私たちは溶岩がいつ流れてきて家を失うかわからないところに暮らしているから」
◆育むこと。娘のSaraについて
Keikoさんにはアメリカのジャングルで出産した二人の美しい娘がいる。先日出産して母親になったMomoと、現在日本でモデルとしてデビューしたSaraだ。デビュー間もない彼女はすぐに企業広告などのイメージモデルを務め、雑誌の表紙を飾り、先日のパリコレでは15歳ながらアルマーニに招待されたことが世界中で話題となった。ナチュラルでヘルシーな笑顔と美しく伸びた手足、抜群の透明感を持つ彼女は、世界的な活躍が期待される次世代のモデルだ。
Sara:「初めましてKobayashi Saraです」
そう言ってはにかむSaraは若干15歳。彼女は5歳からモデルになることを夢見ていた。全く濁りのない澄んだ目の色が印象的な、とても美しい少女はジャングルの近くにある政府運営のフリースクールに通っている。
Sara:「学校ではサーフィンとか、ヨガとか、フラダンスとかの授業を受けてる。アートの授業の時に学校に行くけど、普段はコンピュータで授業を受けてるよ」
現在は毎月日本を訪れて、モデルの仕事とハワイでの学生生活を両立している。
◆これまでの物語と、これからの物語
2人の娘さんも現在17歳、15歳。彼女たちが大きくなったことで、Keikoさんの暮らしに変化は訪れただろうか。
Keiko:「もちろん変化したわ!だけど、とっても楽しいの。こうしてSaraの付き添いで東京にきて、いろんな人に会って。ハワイでは感じられない感覚だし、どっちも大切なことだって感じてる」
子供を育てること。種を育てること。自身の生活の基盤をプナの大自然の中に置いたKeikoさんはそこでかけがえのない、他では決して育たない、SaraとMomoいう特別な種も育んだ。娘たちは力強く大地に根を張り、自分たちの人生を自分たちの力で創り上げていこうとしている。
Keikoさんがこれまで辿ってきた、まるで物語のような人生。その物語の中の彼女は育てる人であり、自分の人生を自由に生きる“旅人”だ。
Keiko:「私には一つ夢があって。今までずっと旅をしてきたけれど、旅人だと土を触れないから育てた種が収穫できないでしょう?だから世界中のエコビレッジとネットワークして、住む場所を交換したいの。交換留学みたいな。そして行った先で私がそこの畑を耕して、コミュニティに入って。そこで私が持ってるものを還元できる。住む場所を交換した相手もそう。そうやって自分たちが持ってるギフトをお互いのコミュニティで分かち合う。みんなが持ち寄ったもので世界中のコミュニティがより良いものになっていく。それを最終的な目的としてるのよ」
世界で一番空気がきれいだとされる場所であり、精霊の住む森・ハワイのプナ地区から始まる“新しいコミュニティ”の息吹。
その目指す先には、人々の暮らしの営みや環境にやさしい世界が広がる。